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あらざらむ後忍べとや袖の香を
               花たちばなととどめ置きなむ




大分日があいてしまいましたがSSの後編です



あの日、感じたのは絶望ではなかった
―やっぱりそうなんだ 僕は居なくたって構わないんだ―
絶望というよりは、諦めと言った方がいいかもしれない
『僕には羽がなく あの空が、高すぎたから』
つけっぱなしのラジオからは、そんな歌が流れていた

その頃からだろうか、日常が姿を変えていったのは
「それ」は日常の向う側からやってきた
初めは、その場に渦巻く残留思念を感じるだけだったが
百ヶ日を過ぎた頃には、思念が形を成し牙を剥き襲いかかってきた
それと戦う術が、この身に巣食う忌まわしい蟲にある事を知った

やがて、それがゴーストと呼ばれる存在だと知る事となった
同時に、ゴーストと戦う者達が集まる学園があるという事も




影に紛れてからどれくらいの時間がたっただろうか
不意に周囲の空気が冷えていくのを感じた
程なくして、闇の向うから現れたのは手負いの妖獣
どうやら討ち漏らしが出たようだ
問題はない、その為に自分は此処に居る
影の中から妖獣に向けて、手を振り抜き黒燐蟲を放つ
乾いた音を立てて蟲の塊が爆ぜると、もう妖獣の姿はそこには無かった
それで、終わり

戦う事は怖かった、辛かった
でも、戦いの中ならこんな自分でも必要としてくれる
それならばどんなに苦しくても戦える、ここなら自分でも居ていいんだ
もう無いと思っていた自分の居場所、それを戦いの中に見出した
はたしてそれは、幸か不幸か―


頭の中を記憶が巡る
弟の記憶、母の記憶、戦いの記憶
その度に心のどこかが、じくじくと染まる
意識は、闇の中へ中へと潜っていく
まるで、底なし沼にはまったように
弟、母、戦い、母、弟、戦い…
深く、深く、もっと深く

ああ、やっぱりだ、今夜も眠れない
いつもの事だ、問題はない
そう覚悟を決め、深く息を吸い込む

ふいに、オレンジの香りがふわりと香る
香りに誘われ、呼び起こされるのは一人の笑顔

―…うん! いつもそんな風に笑ってる方が素敵ですよ!

笑顔は波紋となり、仄暗い水面に広がっていく

大切な、大切な恋人の笑顔
愛しい、愛しい恋人の笑顔

波紋は広がり、連鎖する

―【大切な人が出来たなら…いっぱい笑ってあげましょう】 しあわせのおまじないだよっ!
ありがとう

―七味を自分で作ったんだ~。すごいね! 
ありがとう

―後輩を見守るのは、先輩の醍醐味だからね?
ありがとう

―お二人の幸せをお祈りしています…
ありがとう

―次は黒賀さんの番ですね?
ありがとう

―おめでとです
ありがとう

―いいんじゃないですか?シンプルで最強の言葉ですよ?
ありがとう

やっと見つけた本当の居場所
自分が自分で居られるこの場所

居場所を見つける為に戦うのではない
居場所を ―大事な人を、大事な仲間達を― 護る為に、一緒に戦う
もう独りなんかじゃない、
共に進んでくれる貴女が居る
共に進んでくれる仲間が居る
もう、何も怖くはない

これから先も、あの忌まわしい記憶を忘れる事は恐らくない
でも、きっといつか乗り越えていける

オレンジの香りと沢山の笑顔に包まれていると
そんな気持ちになってくる


いつの間にか重太郎は眠りに落ちていた

微笑みをたたえて
 

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